• 研究室の歴史
  • 物理学教室は、1897年の京都帝国大学創立に際し、勅令219号により講座数3をもって発足した。 第1講座、第2講座および第3講座がそれである。 これらはつぎに開設された第4講座とともにいわゆる番号名講座で、専攻内容に必ずしも制限のあるものでなく、 お互いの間に流動性があった。
    創立時における担任者は、第1講座が教授山口鋭之助、第2講座が教授村岡範為馳、 第3講座は助教授田丸卓郎である。しかし、当初は担任の形式も分担であったり全担であったりし、 またその担当者にも多くの流動が見られる。 流動が一応収まった1902年、第1講座は山口鋭之助、第2講座は村岡範為馳、第3講座は水野敏之丞がこれを担任した。 これらの人々が事実上初代の教授と目される。 村岡は、本邦音響学の創始者で、「実験音響学」を著した。 また、明治28年に発見されたX線の実験を、早くも翌29年には島津製作所で追試し、X線に関する解説書を書いている。
    原子核論講座はもと第2講座として1921年に教授玉城嘉十郎が担任した。 玉城は古典力学、相対論、流体、航空力学を専攻した。 ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹、朝永振一郎は玉城一門の同級生であった。 1938年玉城の急逝後、大阪大学助教授湯川秀樹が1939年に本学教授となりこの講座の担任となった。 湯川は1943年に第5講座が新設されるとともに、それに移り、この講座は1944年助教授小林稔が担任し、 翌1945年に教授に昇任した。 そして本講座内容は量子力学より原子核論に移り、1963年より原子核論講座と改称した。
    (「京都大学七十年史」、「京都大学百年史」より)
  • 研究の紹介
  • この世界を構成している原子・分子・イオンは、よりミクロには原子核と電子からできています。その原子核も幾つかの「核子(陽子と中性子)」が集まってできてます。原子核中の核子を結び付けている力は、私達が日常目にする電磁気力とは全く性質の異なる「強い相互作用」です。湯川秀樹博士は、このことにいち早く気づき、核子間に強い引力をもたらす「中間子」の存在を予言しました。これら核子や中間子等は「ハドロン」と総称されますが、ハドロンもまたさらに基本的な粒子である「クォーク」や「グルーオン」が幾つか強く結びついてできています。私達は、クォーク・グルーオンから、核子・中間子などのハドロン、原子核の構造・反応までの、強い相互作用が織りなす多彩なダイナミックスを、核物理のみならず、素粒子物理・宇宙物理・物性物理など様々な視点から総合的に研究しています。
    京都大学原子核理論研究室は、クォーク・ハドロンサブグループと核多体系サブグループという2つのサブグループから構成されています。 各サブグループは、基礎物理学研究所や他機関からの参加者と共に、週1回のセミナーを行っています。
  • クォーク・ハドロンサブグループ
  • 核子や中間子等のハドロンは、クォークやグルーオンという素粒子によって構成されており、そのダイナミクスは量子色力学(QCD)と呼ばれる理論により記述されると考えられています。 クォークやグルーオンの世界では、真空の構造そのものが変質してしまう程に相互作用が強く、その結果としてクォークはハドロン内部に閉じ込められてしまい単独では現れません。この現象は「クォークの閉じ込め」と呼ばれ、その解明は現代物理学の極めて難しい問題の1つに数えられています。
    クォーク・ハドロンの世界は宇宙物理とも深く関連しています。例えば、恒星進化の最終形態の1つである中性子星は、 中性子のみからなる「巨大な原子核」であり、水の約千兆倍という超高密度の天体です。また遠い過去に遡ると、宇宙創世のビッグバン直後は、1兆度以上の超高温の「クォーク・グルーオンプラズマ」の世界でした。このような高温・高密度の物質中では、クォークがハドロン内部から解放されることが予想されており、このような系を記述する際には量子色力学に基づいた理解が必要になります。高温・高密度の物質の性質を探るために、超高エネルギーの重イオン衝突実験が世界的に行われており、私達は、この実験に関連した理論的研究も行なっています。
    クォーク・ハドロンサブグループでは、このような問題に対して、量子色力学に基づいた系統的な研究活動を行っています。
  • 核多体系サブグループ
  • 原子核は、フェルミオンである核子(陽子と中性子)が、強い相互作用によって束縛された量子多体系です。 原子核には多様な種類が存在し、それぞれの原子核は核子間の強い相互作用を反映して多様なダイナミクスを示します。 例えば、原子核のある状態では各核子は独立な一粒子運動を示し、原子物理に見られる「殻模型描像」が成立しています。 その一方で、特に軽い原子核において、複数個の核子が空間的に局在した「クラスター構造」が現れます。 また、回転、変形、振動といった多数の核子が相関して運動する「集団運動」も顕著な現象として現れます。 原子核内部で中性子がクーパー対を構成し、それらが「超流動現象」を示すというのも、興味深い集団運動現象です。
    最近では、通常の安定原子核に加えて、バラエティに富んだ様々な原子核の存在やその性質が実験的にも明らかになってきています。 宇宙での元素合成のプロセスの鍵を握る「中性子過剰核」や、高速回転する原子核、球形から極端に変形してしまった「超変形核」 ストレンジネス自由度を含む「ハイパー核」などが挙げられます。
    核多体系サブグループでは、これらの強い相互作用をする有限量子多体系に現れる現象や、 強い相互作用そのものを対象として、様々な方法を用いた理論研究を行っています。
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